遺言書の相談を受けた際の悩ましい問題として、遺言者の状態です。遺言書の作成は、もちろん、ご本人様からのご依頼もありますが、実務的には、遺言者のご家族からのケースもあります。
ご家族からのケースの場合に多いのは、痴呆の問題、先行きの見通しが暗いというケースです。
おそらく、遺言者がお元気なときから、遺言書の作成はお考えの事とは思いますが、あるいみ、「いよいよ」となって、ご家族が慌てるケースとも言えます。
遺言は遺言者の意思ですから、認知症など、意思表明ができない場合は、作成できませんし、体調が思わしくない場合も、限界があります。
あと、半年、せめて1か月早ければ・・・と思うケースもあり、悩ましいものもあります。
しかしながら、いろんな理由があるにせよ、決断まで時間がかかり、結果として作成しなかった・・・というのが遺言者の意思であれば、それはそれで尊重すべき点かもしれません。
おそらく、遺言書を作成する事を生業とする同業者の共通の意識として、「なんで、もっと早く・・」という感じを覚える事は、私にも年に何度もあります。
とはいえ、遺言者の視点から、相続の問題の大変さは、遺言者の方には、なかなか理解しづらい点かもしれません。お元気な方で遺言書を作成をされる方は、大概、親戚の相続問題でもめて、二度とあんな経験はしたくないから・・・という場合で、その大変さを、ご理解された方です。
さらに、相続が問題であると理解されていても、なかなか作成に踏み切れないケースもあります。
世の中に平等は基本的にありません。子供に対しても、当然「差」はあります。兄弟でも長男と末っ子では当然に差ができます。ところが、相続の際に、長男と末っ子との差を考えて、問題が起きないように遺言書を作成する・・・これは、当事者でなくとも、かなり面倒で、気を遣う話となります。問題が起こりそうな事は予想できても、それを解消する遺言書を作成するのは、頭の痛い問題で、しかも高齢になるほどに、そういった事が全て、面倒にもなってきます。
そんな事で、数年経過し、いつの間にか、遺言書を作成できない状態に自分自身がなっていた・・・という・・そんなケースが実は多いように思います。ただし、それも含め、遺言者の意思として作成しなかった事を尊重したいと思います。